名将の采配
先月からNHKの深夜番組(0:10~0:40)で「名将の采配」なるものを放送しています。歴史上、名高い戦いを、スタジオ上でディオラマを使って再現する、というものです。
今までは以下の内容で放送されました。
第1回:カンナエ会戦(6月3日)
第2回:厳島の戦い(6月10日)
第3回:サラミス海戦(6月17日)
第4回:ガウガメラ会戦(7月8日)
第5回:上田城攻防戦(7月15日)
このうち、第1、第4、第5回を見ました。そして昨夜の第6回はナポレオン・”常識破り”が勝利への道でした。アウステルリッツでロシア・オーストリア連合軍を撃破した三帝会戦です。
一応、ナポレオン戦争ファンとして期待はしていましたが、どれだけの質を求められるかは疑問でした。何しろ、まともな歴史家や作家の著書を読んだところで、欧米の研究には太刀打ちできない状況だからです。たとえNHKとはいえ、マスコミにそこまで期待するのは無理というものでしょう。
内容に関しては予測がつきました。有利な地であるプラッツェン高地を敵に開け渡した、というのが“常識破り”だというものです。これは、多くのナポレオン本で“戦争芸術の極意”として紹介されているわけです。学研の歴史群像の1994年2月号で初めてナポレオン戦争が特集されたときも、これがクローズアップされていました。
内容を見て思ったのですが、NHKの製作スタッフは誰もナポレオン戦争の本当の魅力を理解していない、というものです。これでは一般の視聴者にナポレオン戦争の面白さをアピールすることもできなければ、最近増殖しつつある“ナポレオニックファン”と呼ばれる人々を満足されることもできないでしょう。一昔前のステレオタイプのナポレオン像をそのまま語ったものです。つまり、「戦略戦術の天才で希代の名将」とか「フランス革命の風雲児」なる既に使い古されたイメージを踏襲したものだからです。また、「余の辞書に不可能の文字はない」などの“名言”や、缶詰を発明したとかいう、何のソースに由来するのか不明な、いわゆるどうでもいい雑学ネタのオンパレードでした。
一番腹が立ったのは、以下の二点でした。
・ナポレオン1人の名前しか出ていなかったこと。ロシア皇帝とオーストリア皇帝の肖像画だけは出ていましたが、両軍の主だった将軍たちの名前は皆無でした。当たり前の話ですが、ナポレオンが一人だけで戦争をやったわけではありません。この時代の他の将兵を語らずして、ナポレオンを語るなかれと言いたいです。フランス軍に関しては、囮部隊の指揮官であるルグラン将軍と、隠し駒を率いていたダヴ―元帥の名前くらいは出すべきでしょう。
・当時の軍隊が歩兵隊と砲兵隊だけで編成されていたかのような解説をしていたこと。騎兵隊の存在を無視しては、手抜きというものでしょう。何と言っても戦場の華ですから。もっとも、NHKでは過去に長篠合戦を散々取り上げ、「鉄砲の前には騎馬突撃は時代遅れになった」というデタラメを何度も繰り返していますから、下手に騎兵の存在を出したら、「なぜ、200年以上もあとの時代のヨーロッパの戦争で、騎馬が突撃していたんですか」などという質問が殺到するでしょうから、わざと避けたのかもしれません。歩兵にしても、武器が銃剣で、1分間に120歩の速度で進撃していた(どうせ柘植久慶さんの「ナポレオンの戦場」からの受け売りでしょう)くらいの解説しかしていませんでした。これでは、一般の視聴者にはこの時代の戦闘のイメージがつかめないでしょう。アレクサンドロス大王の回では、重装歩兵、騎兵、投槍兵、投石兵など兵種別に詳しく解説していたことを考えると、明らかに手抜きです。
どうも、ナポレオンという人物は、名前だけは日本でも有名ですが、その人となりというか、彼が何をなしたかについてはあまり知られていない、というか、注目されていないようです。早い話、戦略戦術の天才といっても、三国志演技で描かれている諸葛亮のように小細工をやる人間だと解釈されているようです。ゲストの一人が、「女性を口説くのにも使えそうなテクニックですね」などと発言していましたが、だったらオブリ編の「ナポレオン言行録」で取り上げられているジョゼフィーヌへの手紙の数々でも読んでみろと言いたいです。彼は基本的に、正面ブチ当たり型の人間だということがよくわかりますから。
日本のマスコミにナポレオン戦争の本当の面白さを理解してもらうのはまだまだ先のようです。一般人のマニアのほうが遥かに先を進んでいるのではないでしょうか。


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